職務基準の給与制度や外部労働市場に見劣りしない水準への給与引き上げなどを提言
――人事院の人事行政諮問会議が最終提言をとりまとめ
新卒採用の動向
採用試験申込者の減少や若年層職員の離職の増大など、若者の「国家公務員離れ」が顕在化するなか、国家公務員の人事管理のあり方について議論してきた人事院の人事行政諮問会議(座長:森田朗・東京大学名誉教授)は3月24日、最終提言をとりまとめ、川本裕子総裁に提出した。最終提言は、働きやすく成長が実感でき、実力本位で活躍できる公務を実現するための、新たな人事管理に向けた具体策を提言。政策の立案などを担当する特定の職務・職域を対象に、職務の難易度・責任が厳格に対応した等級制度を導入することや、外部労働市場と比較して大きく乖離していると考えられる幹部・管理職員の給与引き上げなどを求めた。
<人事行政諮問会議 設置の背景>
一般職採用試験の申込者数が12年前から1万5,000人以上減少
公務を取り巻く環境は、国家公務員の採用試験申込者数の減少や、20代~30代の若年層職員の離職の増大など、人材確保において「危機的な状況」(最終提言)におかれている。
人事行政諮問会議の参考資料によれば、一般職採用試験(大卒程度試験)の申込者数は、2012年度は3万9,644人だったが、2024年度は2万4,240人と1万5,000人以上減少。総合職試験(院卒者試験・大卒程度試験)も、2012年度の2万5,110人から2024年度は1万8,333人へと減少している。総合職の採用10年未満の退職者数は、2013年度は76人だったが、2023年度は203人にまで拡大した。
年功的な給与制度や若年層のキャリア意識などが背景
背景として考えられるのは、生産年齢人口の減少や、外部労働市場と比べた勤務環境・処遇面での魅力の低下、また、年功的な色味が強い給与制度に加え、長期勤続雇用を前提とせず、早い段階から成長できる環境があるかを重視する若年層のキャリア意識の変化など。
こういった課題に公務人材マネジメントが対応しきれていないとの指摘があることから、人事院は2023年9月に人事行政諮問会議を設置。計17回にわたって、「聖域を設けることなく」国家公務員の人事管理のあり方について課題横断的に議論した。会議は3月24日に最終提言をまとめ、森田座長が川本総裁に提出した。
<Ⅰ 国家公務員人事管理の課題解決に向けた対応の方向性>
最終提言は、最初に、「国家公務員人事管理の課題解決に向けた対応の方向性」を提示し、そのうえで、「新時代の人事管理を実現するための具体的施策」を提言した。また、その後に、提言内容を実現するための支援策などについても言及した。
新たな時代にふさわしい人事管理にパラダイムシフトを
「国家公務員人事管理の課題解決に向けた対応の方向性」から、その具体的な内容をみていくと、まず、「限られた人的資本で最大のパフォーマンスを発揮するためには、新たな時代にふさわしい人事管理にパラダイムシフトしていく必要がある」と指摘。組織としてのパフォーマンスを最大化するため、個々の職員がとる行動の方向性と組織の目的や方向性を一致させていくことも求められるとした。
また、個々の職員がパフォーマンスをさらに発揮できるようにするため、幹部・管理職員が職員の育成の重要性を十分に理解し、マネジメントスキルを磨くとともに、「組織全体で働きがいと成長実感を持てる公務組織となるよう更なる変革を進め、職員のワークエンゲージメントを向上させていくことが求められる」と強調した。
国民全体を視野に入れて意欲的に働く必要
方向性の2番目として、国家公務員全体に共通する人事管理の変革の必要性について言及した。
外部環境の変化が激しい時代において、意欲的に働ける公務組織を実現していくためには、「職員の働き方に対する価値観などの多様化を踏まえた組織運営が求められる」とするとともに、「所属する府省や一部の利害を偏重せず、国や国民全体を視野に入れ、意欲的に働く必要がある」と指摘。
そのために、国民から信頼される国家公務員としての使命を明確化し、国民全体の奉仕者として公務全体のパフォーマンス向上に資する働き方をするために通底する要素を示すことで、「国民と国家公務員との間の信頼関係をより強固なものとしていく必要がある」と指摘した。
ミッション・ビジョンなどを定めて職員の行動を引き出す
また、各府省が目指す方向性や重視する価値を明確にし、多様な人材が共通の目的意識を持ちながら働ける環境を整備することが不可欠だとし、すでに複数の府省が定めているミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を定めたうえで、「これに沿った職員の行動を組織としてどのように引き出し、職員個人の業績や組織としての成果と結び付けていくかを考える必要がある」などと強調した。
さらに、働きがいと成長実感を持てる公務組織となるよう「更なる変革を進め、ワークエンゲージメントを向上させていくことが、個々の職員のパフォーマンスを更に向上させていくこととなる」とした。
職務の難易度・責任の重さに見合った給与の実現を
3番目として、特定の職務・職域を対象に先んじて対応すべき人事管理の変革について言及した。
最終提言は、優秀な人材が魅力と捉えるような、採用の種類や年次に縛られない実力本位の人事管理を実現するためには、「職務の難易度・責任の重さに見合った給与を実現し、外部労働市場に見劣りしない報酬水準とすることが求められる」と強調。評価と処遇が結び付く「メリハリと納得性のある人事評価の運用を実現する必要がある」とした。
等級・報酬・評価のあるべき姿として、実力本位で活躍できる公務を実現するため、「職務の難易度・責任の重さに見合った給与を実現することが必要」だとして、職務基準の給与制度・運用の徹底が求められるなどとした。
こうした職務基準の給与制度・運用を、政策の企画・立案や高度な調整などを担当する国家公務員の人事管理に実装させるための人事運営については、「職員が配属された部署・ポストが達成すべき役割について入念に説明すること」「職員に期待する業績・達成度を上司と部下とで明確にすり合わせること」などが重要だと指摘。マネジメント状況を可視化するサーベイの必要性にも言及した。
<Ⅱ 新時代の人事管理を実現するための具体的施策>
以上の方向性をふまえ、最終提言は、①国家公務員としての使命感を持って意欲的に働ける公務②年次に関係なく実力本位で活躍できる公務③働きやすく成長を実感できる公務④優秀な人材を惹きつけ、選ばれる公務――の4つの観点に整理して、具体的な施策を提言した。
1 国家公務員の行動規範の策定
国家公務員行動規範は3つの柱で
最終提言は、国家公務員に共通して求められる行動がわかりやすい内容で言語化されていたとは言えないと述べて、共通して求められる行動の指針となる「行動規範」の検討を求め、「国家公務員行動規範」に盛り込むべき、望ましい内容を提言した。
最終提言が示した行動規範は、①「国民を第一」に考えた行動②「中立・公正」な立場での職務遂行③「専門性と根拠」に基づいた客観的な判断――という3つの柱で構成。人事院に対し、速やかに「国家公務員行動規範」の策定を求めるとともに、本府省・本府省以外を問わず、広く周知・啓発していくことなども要請した。
2 職務基準の給与制度・運用
一部の職種において職務基準の給与制度に見直す
職務基準の給与制度・運用については、採用の種類や年次に縛られず、幅広い人材から弾力的な登用や抜擢が行いやすくなるように等級・報酬・評価のあり方を一体的に見直していく必要があるとして、「等級・報酬」と「納得感があり成長へとつながる評価」に分けて見直すべき事項を記した。
等級・報酬からみていくと、政策の立案などを担当する特定の職務・職域を対象に、職務の難易度・責任が厳格に対応した等級制度を5年以内を目途に導入することを提案。それに向けて、職務分析・評価により公務内ポストの職務価値と等級との対応について検証を行い、給与等級を見直すべきだとした。
また、特に幹部・管理職員を中心に、政策の企画立案や高度な調整等に関わる職員層は、現行制度以上に職務との結び付きが強い給与体系に移行することを目指すべきだとした。
幹部・管理職員の給与は外部と見劣りしない水準に引き上げ
外部労働市場と比較して見劣りしない報酬水準も提言。「給与水準などが外部労働市場と比較して大きく乖離していると考えられる幹部・管理職員の給与は、職務基準の人事運営を行っていくことを前提に、職務分析・評価をベースとし外部労働市場と比較して見劣りしない水準に引き上げるべき」とした。
官民給与比較手法の見直しも提起し、現在50人以上とされている官民給与の比較対象となる企業規模について、「少なくとも従前の100人以上に戻すべきである」との考えを示した。この比較手法の見直しについては、来年度を目途に実施することを求めている。
納得感がある人事評価制度に向けては、まず、現状を把握するため、「内閣人事局で評語の分布状況等を調査し、人事評価制度の見直しの効果検証を行うことが求められる」とした(3年以内を目途)。
最適な人材をタイムリーに配置できる仕組みを整備するため、登用候補者を適切に確保することや、昇任後、6カ月間は新ポストでの人事評価を観察するため、条件付きの昇任期間とする「条件付昇任期間」について、実力本位の人事管理を定着させるためにも、期間を現在よりも長くすることなども提言した。
指針で人材の確保・育成戦略を明確に
以上の給与制度などを確実に運用するため、最終提言は基盤となる環境整備についても提言を盛り込んだ。
各府省は、「組織として求める方向性や重視する価値、自府省の今後の業務領域の展開等を見据えながら、当該事業展開を踏まえた人材ポートフォリオ(今後の事業戦略の実現に必要となる人材の質的・量的な構成を明らかにしたもの)を念頭に置いて、今後どのような人材がどのくらい必要となるか、組織が現在有している人材との差をどのような手段で埋めるのか(新卒採用や経験者採用により埋めるのか、あるいは育成や人事異動により埋めるのか)、といった人材の確保・育成戦略を明確にしていくことが必要」だとして、人事運営のための指針の策定を求めた(3年以内を目途)。
このほか人事管理におけるデジタルツールの活用も求めた。
3 職員の意欲を高め成長を実感できる公務の実現に向けた環境整備
長時間労働の改善に向け、業務プロセス改革やDXの推進を
職場などの環境整備について、最終提言は、「魅力ある勤務環境」と「働きがいと成長実感を得られる環境」について言及した。
「魅力ある勤務環境」では、「長時間労働の改善は喫緊の課題である」とし、生産性の向上を図るために、「業務プロセス改革やDXの推進といった業務効率化、業務量に応じた柔軟な人員配置に努めるべきである」と主張。AI等の最新技術については、「活用していくべき」とした。
必要な人員の確保に向けては、「業務量に応じて必要な人員を確保できる環境を整備するとともに、ワークライフバランスのとれた働き方を拡充し、様々な事情に直面する人材が公務で働き続けられるようにすることが人材の確保において極めて重要」だと指摘。
長時間労働の是正については、「長時間労働もやむを得ないとする職場風土や職員意識を抜本的に切り替えることが求められる」とし、国会対応については「オンラインによる質問レクなどデジタルツールを利用した質問通告の推進等、立法府でも一層の改善が求められる」と記述した。これらは5年以内を目途に実施することを求めた。
一般の職員にも部分休業や短時間勤務などを拡大すべき
時間に縛られない柔軟な働き方も提言している。具体的には、短時間勤務の拡大と裁量勤務の導入を提言。短時間勤務については、様々な事情を抱えながらも職員が継続して活躍していくために、「フルタイムを前提としない勤務を拡大するための部分休業・休暇や短時間勤務などの制度の対象を育児や介護などの事情がある職員に限定することなく、一般の職員にも事情を問わず拡大すべき」だと提言した。
また、「一定の自律性をもって業務を行うことができるポストや一部に他律的な業務が含まれていてもそれを明確に切り分けられるポストは、総労働時間の多寡ではなく、アウトプットによって仕事を評価する仕組みが考えられる」として、現在、一部の職員に適用が認められている裁量勤務制も参考としながら、「職員が自律的に働くことができる枠組みを整備すべき」だとした。
場所に縛られない働き方としては、テレワークのさらなる活用や、転勤のあり方の見直しを提起。転勤については、「ワークスタイルやライフスタイルが大きく変わるような転勤の必要性を改めて見直すべき」とした。
このほかハラスメント防止対策の徹底や勤務間インターバル確保の徹底にも言及している。
適切なフィードバックと具体的な行動への指導・助言を
一方、「働きがいと成長実感を得られる環境」では、自律的なキャリア形成の支援と、主体的な学びの支援を提言した。
自律的なキャリア形成の支援では、人事の納得感を向上させるため、「公務でも、納得性のある人事評価と適切なフィードバックによる育成、具体的には職員の具体的な行動に対する指導・助言を行うことなどが求められる」とし、また、主に課長補佐級以下の職員の育成の観点から、「職員が希望するポストに応募することが可能な組織内公募や府省間の公募による異動を活性化することにより、職員自らが希望する仕事に自らの意思でチャレンジできるような環境を整備することが必要」だと提起した。
主体的な学びの支援では、職務に有用な資格取得等のための金銭的補助や、自ら学びたいことを選んで研鑽する機会を充実する自己啓発等休業の対象範囲の拡大など、「職員の主体的な学びを支援すべき」と提言。さらに身に付けたスキルを評価することも重要だと指摘した。
兼業・副業も後押しすべきとの考えを示し、「職務の公正な執行や公務の信用等を確保した上で、業務や職員の健康に支障のない範囲で兼業・副業を認め、自発的な公務外での経験を後押しする」ことなどを求めた。
4 優秀な人材を惹きつけ、選ばれる公務にするための取り組み
試験科目の構成を受験者数が増えるように見直しを
優秀な人材を惹きつけるために、採用スキームの見直しや公務の魅力の向上と発信を掲げた。採用スキームではまず、採用試験のあり方の見直しを提起。
当面の対策として、「現在進めている総合職試験『教養区分』の受験機会拡大に加え、試験全般に関して、受験者数の拡大につながる試験科目の構成とする方向で見直していくべき」とした。
また、民間企業にならい、全国のテストセンターを利用した一定の期間内で受験できる手法を導入していくべきだとし、これにより、現在は年に1回の採用試験だが、年に複数回の受験が可能になることから、「実質的な採用の通年化につながることになり、志望者の獲得と各府省の採用ニーズを同時に満たすことが可能となる」とした。
このほか、インターンシップを活用した採用の推進や、現在より転勤可能性が低い採用スキームの導入、経験者採用のプロセスの簡素化も提起した。
公務職場に対するマイナスのイメージを払拭
公務の魅力の向上と発信では、「公務職場に対するマイナスのイメージを払拭するとともに、職務内容の魅力や仕事で身に付くスキルを分かりやすく言語化するなどにより、国家公務員という仕事のブランディングを人材確保の観点から戦略的に行う」ことなどを提言した。
<Ⅲ 提言内容の実現のために>
人事院の専門人材を各府省に配置
こうした提言の内容を実現させていくため、最終提言は、人事院に対し、「制度運用の適正性を確保しつつ、時代環境に即して各府省の更なる業務効率化に資するよう、例えば制度運用についてプロセスが情報システム上で完結するなど、デジタル技術を活用していくべき」だと要望。また、各府省における戦略的人事の支援、人事・給与関連のオペレーション業務の負担を軽減させるため、「人事院が確保・育成した人事分野の専門性を有する人材を各府省に配置することなど、各府省の人事管理実務を人材面でも支援していくべき」だとした。
進捗状況は定期的にモニタリングすべき
実行にあたっては、「速やかに各施策の工程表を作成した上で、取組の進捗状況を定期的にモニタリングし、その結果を公表することを求める」とし、「制度の見直し後に各府省における制度運用の状況がどのように変化しているのか、サーベイ等を通じて継続的に把握していく必要がある」とした。
最後に、「内閣人事局が本提言に沿って政府としての取組方針を『人事管理運営方針』に盛り込むなど、今後、人事院と内閣人事局がそれぞれの役割に基づき一層連携して人事行政施策を推進していくことを望む」と明記した。
(調査部)
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