一般会計の総額は約34兆円で、三位一体の労働市場改革の推進などに重点
――厚生労働省の2025年度予算
国内トピックス
2025年度政府予算が3月31日に成立した。歳出総額は115兆1,978億円で、そのうち一般歳出は68兆1,071億円となっている。厚生労働省予算の一般会計は34兆3,064億円で、労働政策関連では、持続的・構造的な賃上げに向けた三位一体の労働市場改革の推進などが重点事項となっている。
一般会計は前年度と比べると4,875億円(1.4%)増
厚生労働省予算の一般会計は、2024年度比で4,875億円(1.4%)増。労働保険特別会計は3兆3,158億円で同746億円(2.3%)増。年金特別会計は72兆1,786億円で同5,298億円(0.7%)減。子ども・子育て支援特別会計(育児休業等給付勘定)は1兆616億円で同1,303億円(14.0%)増などとなっている。
重点事項は、①全世代型社会保障の実現に向けた保健・医療・介護の構築②持続的・構造的な賃上げに向けた三位一体の労働市場改革の推進と多様な人材の活躍促進③一人一人が生きがいや役割を持つ包摂的な社会の実現――の3分野。
このうち、労働関連の施策が主に該当する②持続的・構造的な賃上げに向けた三位一体の労働市場改革の推進と多様な人材の活躍促進では、「最低賃金・賃金の引上げに向けた支援、非正規雇用労働者への支援等」「リ・スキリング、ジョブ型人事(職務給)の導入、労働移動の円滑化」「女性の活躍促進」などが主な取り組みのメニューとなっている(図表)。
図表:持続的・構造的な賃上げに向けた三位一体の労働市場改革の推進と多様な人材の活躍促進に向けた内訳
(公表資料から編集部で作成)
最低賃金・賃金の引上げ等に対する支援に328億円
重点事項に掲げられた内容のうち、新規・拡充項目を中心に詳しくみると、家計所得の増大を図るため、最低賃金や賃金の引き上げに向けた中小企業・小規模事業者の生産性向上の取り組みへの支援や、ステップアップをめざす非正規雇用労働者等に対する支援などに総額328億円を投入する。
個別の施策をみていくと、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援する「業務改善助成金」に15億円を計上。事業場内最低賃金(事業場内で最も低い時間給)を引き上げ、生産性の向上に資する設備投資を行った場合に、その設備投資に要した金額の一部を助成する。
人材の確保や雇用管理改善を推進する事業主等に対し助成する「人材確保等支援助成金」には計20億円を計上。そのうち、賃金規定・人事評価制度などの導入・実施や、従業員の直接的な作業負担を軽減する機器等の導入による雇用管理改善を行い、離職率の低下に取り組んだ場合に助成する「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」については、2024年まで整備計画の新規の受付が停止されていたものの、他のコースと統合したうえで2025年4月から受付の再開を行う。
所得の増大を視野に、非正規雇用労働者の処遇改善にも注力する。ステップアップをめざす非正規雇用労働者等を支援するため、「求職者支援制度」に261億円を充てる。
三位一体の労働市場改革に関する施策に1,593億円
経済社会の変化に対応し、持続的・構造的な賃上げを図るため、労働者の学び・学び直しを支援することや、個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入、成長分野等への労働移動の円滑化に総額1,593億円を投入し、三位一体の労働市場改革を後押しする。
リ・スキリング支援に対する個別の施策をみると、新規事業として全世代を対象とした学び直しを支援するため、雇用保険受給者を対象に、自発的に教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、賃金の一定の割合を支給する「教育訓練休暇給付金」を創設し、78億円を投入する。
雇用保険を受給できない求職者への融資制度を設立
また、フリーランス等の雇用保険を受給できない求職者の学び直しにも手厚く支援する。生活費等への不安なく、学び直しのために教育訓練に取り組むことができるよう必要な費用について融資を受けられる制度を新規で設立し、8,100万円を充てる。
こうした学び直しの気運を高めていくために、「キャリア形成・リスキング推進事業」に41億円を投入し、ハローワークのキャリアコンサルティング等の体制の強化や、40代後半以降の中高年層を対象に、セカンドキャリアに向けたキャリアプランを支援する「中高年齢層の経験交流・キャリアプラン塾(仮称)」を新規事業として盛り込む。
また、スキルの向上支援とともに向上したスキルが正しく評価される仕組みを広げるため、新規事業として「スキルの向上を処遇に結び付けていく環境整備に向けた調査研究事業」にも5,200万円を投入する。現状の国家資格・民間資格と処遇との関係性を、実態調査やヒアリングを通じて整理する。
人材開発助成金の助成率を見直す
さらに学び直しを後押しする事業主への支援として、職務に関連した専門的な知識および技能を取得させるための職業訓練等を実施した事業主にその費用の一部を助成する「人材開発支援助成金」に545億円を計上する。
そのうち「人材育成支援コース」では、雇用する非正規雇用労働者の訓練機会を増加させるため、人材育成訓練の非正規助成率を60%から70%に引き上げることや、有期実習型訓練を実施し正規雇用労働者等への転換等を実施した場合の助成率を75%に引き上げるなど、他のコースを含め制度の見直しや助成額の拡充を行う。
労働に関する情報を一元的に提供するポータルサイトを構築
労働移動の円滑化のための推進策では、労働市場に関する情報を可視化するため、無料で職業情報を入手できる「job tag」や企業の職場情報を求職者や学生等に提供する「しょくばらぼ」にID・パスワード機能やアンケート機能などを装備し、サービスの向上を図る(5.1億円)。
また、こういったコンテンツの周知広報や、職業、職場の労働情報を一元的に提供するポータルサイトを構築していくため、新規事業として「労働市場情報の見える化の促進に向けた広報事業(仮称)」に4,100万円を投入する。労働に関する様々な情報へのアクセスを容易にしていくことで求職者等の円滑な労働移動を推進する。
人材確保の支援に416億円
人手不足分野における人材確保の推進や高齢者の社会参加など人手不足解消に向けた取り組みに416億円を投入する。
個別の施策では、「人材確保対策総合推進事業(人材確保対策コーナーにおける就職支援の強化)」に50億円を投入し、医療、介護、運輸など人手不足が喫緊の課題となっている業種への就職支援を強化していく。全国のハローワークの「人材確保対策コーナー」の設置箇所を119カ所、職業相談員を189人に増員するなど実施体制を強化していくことで、関係機関との連携による求人者への支援や求職者に対する支援など両者をマッチングする機会を拡充する。
障害者や高齢者等、多様な人材の活躍促進等に1,977億円
生産年齢人口や就業者の大幅な減少が見込まれるなど深刻な人手不足が続くなか、障害者や高齢者等、多様な人材の就労・社会参加を推し進め、それぞれの希望に応じた多様な働き方で活躍できる社会の実現のため、「障害者や高齢者等、多様な人材の活躍促進等」に総額1,977億円を投入する。
個別の施策をみると、「中高年世代活躍応援プロジェクト」に5.6億円を計上する。JILPTの調査研究「就職氷河期世代のキャリアと意識」をふまえた定着支援等のモデル的メニュー等を実施し、バブル崩壊後の雇用環境が厳しい時代に就職活動を行い、今も様々な課題に直面している就職氷河期世代を含む中高年世代の安定就労への支援の充実を図る。
非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成する「キャリアアップ助成金」については、1,025億円を充てる。そのうち、有期雇用労働者の賃金改定などを行う事業主に助成する「賃金規定等改定コース」について、賃上げ率の支給区分をこれまでの2区分から4区分に改定し、賃上げ率6%以上の場合は、助成額を6.5万円から7万円に引き上げる。
高年齢労働者の安全衛生対策補助金に新たなコースを設置
働く高齢者の労働災害防止への対策には、7.6億円を充てる。⾼齢者を含む労働者が安⼼して安全に働くことができるよう、労働災害防止対策等の取り組みに対して補助を行った中小企業等の事業主に対して助成する「高年齢労働者安全衛生対策推進費(エイジフレンドリー補助金)」について、「エイジフレンドリー総合対策コース」を新設し拡充していく。働く高齢者の労働災害を効果的に防止するために、専門家によるリスクアセスメントにかかった費用などを助成し、働く高齢者の労働災害を減らしていく。
若者に対する支援では、「地域若者サポートステーション事業」に47億円を充て、就労にあたって困難を抱える15歳~49歳の無職の若者等の就労支援を強化する。
外国人労働者への支援では、2024年6月に公布された「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」に基づき、3年以内に施行される育成就労制度の創設に向けて76億円を充てる。法施行と同時に外国人育成就労機構に改組される外国人技能実習機構におけるシステム体制の強化を行う。
中小企業等の産業保健活動への支援や働く人のメンタルヘルス対策にも注力する。「産業保健活動総合支援事業」に49億円を計上し、メンタルヘルス対策の強化を行う。各産業保健総合支援センターにおいて、メンタルヘルス対策・両立支援促進員を増員するなど、職場のメンタルヘルス対策等の取り組みの支援を拡充する。
仕事と育児・介護の両立支援などに1,289億円
仕事と育児・介護の両立支援や多様な働き方などの推進については、昨年度予算から988億円を増額した1,289億円を投入し、重点的に対策をしていく。
個別に施策をみていくと、新規事業の「共働き・共育て推進のための給付の創設」に792億円を充てる。男性の育児休業取得を促進するため、子の出生後一定期間内に両親ともに育児休業を取得した場合に支給される「出生後休業支援給付金」や、育児中の柔軟な働き方として時短勤務制度を選択しやすくすることを目的とした「育児時短就業給付金」などを設立し、夫婦ともに働き、育児を行う「共働き・共育て」を推進する。
「両立支援等助成金」は法改正にあわせて制度内容を見直し
働き続けながら子育てや介護を行う労働者のために就業環境整備に取り組む事業主を助成する「両立支援等助成金」には358億円を投入する。2025年4月1日から段階的に施行となった改正育児・介護休業法にあわせて制度内容を見直す。
「柔軟な働き方選択制度等支援コース」をみると、現行では2つ以上の制度を導入した場合に20万円を支給するとしていたが、3つ以上の制度を導入した場合に変更。また、現行では3つ以上の制度を導入した場合には、25万円を支給するとしていたが、こちらは4つ以上の制度を導入した場合に変更。また、子の看護等休暇制度を有給化した場合、制度導入時に30万円を支給する。
労働者のニーズに応じた多様な働き方の推進としては、短時間正社員など勤務時間、勤務地、職種・職務を限定した「多様な正社員」の好事例の収集や周知などに5,200万円を投じる。
労働時間については、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保する勤務間インターバル制度の導入促進に向けて1.1億円を充て周知・啓発事業を強化する。
ハラスメント対策に67億円
ハラスメント対策では、安心安全な職場環境を実現するため67億円を投入する。個別に施策をみると、カスタマーハラスメントなど職場におけるハラスメントを網羅した総合的ハラスメント防止対策事業に7.9億円を充てる。パンフレットなどを作成し、ハラスメント対策の周知・啓発活動や、ハラスメント事案解決のための伴走型取組支援を企業等へ行う。
フリーランスの就業環境の整備に2.3億円
2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(フリーランス新法)を強力に推し進めるため、「フリーランスの就業環境の整備」に2.3億円を盛り込む。同法の周知・啓発活動や、フリーランスと発注事業者等との取引上のトラブルなどについて、弁護士にワンストップで相談できる窓口などの環境整備を行う。
女性の活躍促進には49億円
女性の活躍促進には総額49億円を盛り込み、男女間賃金格差の是正や子育て中の女性等に対する就労支援等に取り組む。
個別の施策をみていくと、中小企業を対象とした、女性活躍推進に関する取組内容のあり方や、雇用管理状況に応じたコンサルティングを実施する「民間企業における女性活躍促進事業」に2.4億円を充て、女性活躍推進法にかかわる相談対応等を行う指導員数の拡充等を図る。
女性特有の健康課題に対応するため、休暇制度など両立支援制度を整えた中小企業事業主に対して支給される「両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)」に8,400万円を投入する。これまで、その対象は不妊治療のみだったが、月経、更年期にもその対象を広げ、女性の離職防止を図る。
(調査部)
2025年5月号 国内トピックスの記事一覧
- 一般会計の総額は約34兆円で、三位一体の労働市場改革の推進などに重点 ――厚生労働省の2025年度予算
- 賃金の男女格差が1976年以降で最も縮小 ――厚生労働省「2024年賃金構造基本統計調査」結果からみる女性賃金の現況