資料シリーズ No.185
中国進出日系企業の研究
概要
研究の目的
今後、よりいっそうアジア、とりわけ中国との関係が円滑に緊密化し、わが国の経済状況に寄与するものとなるよう、正確な情報収集が必要である。中国社会の全体的な変容の構図と、その中で進出日系企業が直面する問題を検討するため、中国でオペレーションを続行する企業に対してヒアリング調査を実施する。その結果と共に本社のグローバル戦略をはじめ、より広い視野から検討することを通じて、日系企業の現状と課題を整理する。
研究の方法
- 文献研究
- ヒアリング調査の実施
主な事実発見
- 中国社会をマクロに捉えると、以下のような様相をみることができる。様々な集団が組織化されつつある一方で、政治・行政面においては強い管理体制が敷かれている状況にある。ただ、その中でも、驚異的な経済成長を支えた農村からの第一で稼ぎ世代が次世代に変わっていく際、単に賃金のみならず、豊かな生活を望む傾向をみることができる。一定範囲内の自由度と上からの管理体制の狭間で、中国社会は変動している。
- 現地・本社からみる日系企業の動向は以下のとおりである。
①中国を相対的にみれば、日系企業全体の事業展開は、未だ約半数が「拡大」を志向しているものの、「縮小・撤退」の比率が増加し、人件費の高騰が続いている。また、景気低迷の影響も関係し、地方政府がこれまで採ってきた優遇施策を撤廃しつつある。
②そうした事態に、日系企業は「現在、そして、今後なぜ中国でのオペレーションを続けるのか」という点を明確にし、戦略を再構築・再編成する必要に迫られている。その一つが協調的な労使関係の構築であり、また、本来の意味でのヒトの現地化である。
③本社からみた場合の問題は、まずは日本側から派遣するスタッフをいか育成していくのかである。本来、育成の場となる国内の拠点が減少する中で、いかなる手順で育成するのかが課題である。
④現地スタッフについては、より上級の管理職を育成する際、管理職が担うべき職務のあり方をいかに伝えていくのか、その手順や方法を再検討する必要に迫られている。ただ、その基盤となるのは十分なコミュニケーションである。
⑤赴任経験者へのヒアリングから浮かび上がってくるのは、より根本的な課題である。すなわり、日系企業はこれまで「進出先に適した本来の進出のモデル」を真剣に考えてこなかったのではないかという問題提起はきわめて重要である。日系企業はまさに今、そうした「国際経営の形」という点から、今後のヒトの現地化を含めた、経営全体の現地化を本格的に考えていく段階に入っている。
- 労使関係に関する研究により、以下のような点が明らかとなった。
労働争議の件数をみれば増加傾向にあるものの、日系企業に限定した場合、やや沈静化の傾向をみることができる。
労働争議に関するこれまでの代表的な事例をみると、本来の「労使関係」が想定しにくい関係性がみられ、さらに地方政府がそうした争議に関わる構図をみることができる。ただ、そうした争議に対して、従業員の権利意識の向上にも伴い、より対話を重視した穏やかな協議により収拾を図ろうとする兆しも見え始めている。
政策的インプリケーション
アジア地域、中でも中国の動向情報は、わが国の雇用・労働の状況を考える際不可欠の情報となっており、労働政策の企画・立案などのための基礎情報として活用されることが期待される。
本文
本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:321KB)
- 第1章 本書のねらいと構成(PDF:652KB)
- 第2章 マクロな視点から現代中国の労使関係を考える(PDF:1.1MB)
- 第3章 現地と本社からみる日系企業の現状(PDF:489KB)
- 第4章 中国における労働紛争の現状と対処方法の新たな動向(PDF:682KB)
- 第5章 むすびにかえて―今後の研究に向けて―
【参考:用語説明】(PDF:187KB)
研究の区分
プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」
サブテーマ「アジアにおける労働社会の実情把握などグローバル化対応に関する調査研究プロジェクト」
サブサブテーマ「中国進出日系企業の人事管理に関する研究」
研究期間
平成28年4月~平成29年3月
執筆担当者
- 田中 重好
- 名古屋大学環境学研究科教授
- 中村 良二
- 労働政策研究・研修機構主任研究員
- 李 青雅
- 労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー
関連の研究成果
- 資料シリーズNo.158『中国進出日系企業の基礎的研究Ⅱ』(2015年)
- 資料シリーズNo.121『中国進出日系企業の基礎的研究』(2013年)
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