労働政策研究報告書No.117
非正規社員のキャリア形成
―能力開発と正社員転換の実態―
概要
研究の目的と方法
「非正規労働者の態様に応じた能力開発施策に関する調査研究」 プロジェクト研究「新たな経済社会における能力開発・キャリア形成支援の在り方に関する研究」のサブ・テーマ
※平成19~22年度の研究の中間とりまとめ
- 全国の25~44歳の就業者を対象に、中学卒業後から現在までの学校教育や働き方、ライフイベントに関して網羅的に調べた大規模アンケート調査を用いて、非正規社員のキャリアパスや正社員転換の実態と、能力開発の実態について分析した結果をとりまとめたものである。 調査期間は2008年10月~12月で、有効回収数は4,024である。
主な事実発見
- 離学後5年間の初期キャリアにおけるキャリア・パターンが、近年では、「ずっと正社員」である人の割合が減り、「ずっと非正規社員」と「非正規→正社員」という人の割合が増えていることが明らかにされた。
- 25歳から44歳の就業者のうち、これまでのキャリアの中で非正規社員から正規社員に移行した経験がある者は19.2%である。年齢ごとに正規社員への移行率を計算すると、男性では20歳代から30歳代初めまでは10~20%程度であるが、女性では10%を超えることは少なく、30歳代では2~3%にとどまる。
- 非正規から正規社員への移行にプラスに働く要因は、 (1)移行の直前職と移行後の職種が同一であること、 (2)直前職でのOff-JTの受講経験があること、 (3)直前職での労働時間が正社員並みであること、 (4)学校教育での専攻と採用職種が一致することであった。
- 非正規社員は企業内訓練を受けられる人の割合は小さいが、訓練を受けた非正規社員の仕事能力や生産性は高くなっていることが示された。つまり、非正規社員への訓練の実施は、正社員に対する訓練同様に、企業活動にプラスの影響を及ぼしている。しかしながら、訓練を受けることで非正規社員の賃金がアップするわけではないことも示された。
- 非正規社員の同一職種での転職においては、勤務先で企業内訓練を受講したことがある非正規社員のほうが受講経験のない人よりも正社員としての転職確率が高い。
政策的含意
- 非正規社員の中でもフルタイム勤務への転換が難しい人や期待就業年数が短い人に対しては、人的資本の蓄積を促進する環境整備が不可欠である。つまり、企業内での正社員転換や労働市場における正規社員への転職の機会を整備して、非正規社員として働く人のキャリア形成の機会が拡大させることが、社会全体として非正規社員の能力開発の機会を充実させることにつながる。
- 非正規社員でフルタイム勤務への移行が難しい人の正規社員への移行を円滑にするためには、正規社員の長時間労働を解消したり、短時間正規社員制度を導入したりするなど、正規社員の働き方の改革が有効である。また、年齢が移行にとって大きな制約となっていることから、20歳代へのキャリア転換を促進するための集中的な支援が有効である。
- 非正規社員の賃金水準の決定に際して、職能給や成果給などを整備し生産性の向上に見合った賃金水準となる仕組みとすることが必要である。このことは非正規社員の能力向上意欲の喚起にもつながる。
政策への貢献
- 平成18年通常国会での職業能力開発促進法の改正にかかる審議において「非正規労働者に対する能力開発の実態に関する調査を行う」旨の付帯決議が衆・参両議院によりなされており、これに応えるための1つの資料として貢献した。
- 厚生労働省が設置した雇用政策研究会の報告書で引用された。
本文
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- 表紙・まえがき・執筆分担・目次(PDF:618KB)
- 第Ⅰ部:総論 (PDF:409KB)
- 第Ⅱ部:各論1(PDF:1.0MB)
- 第Ⅲ部:各論2(PDF:1.0MB)
- 第Ⅳ部:資料(PDF:989KB)
研究期間
平成21年度
執筆担当者
- 佐藤博樹
- 東京大学社会科学研究所 教授
- 原ひろみ
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
- 香川めい
- 立教大学社会学部 助教
- 小杉礼子
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員
- 佐野嘉秀
- 法政大学経営学部 准教授
- 黒澤昌子
- 政策研究大学院大学 教授
- 山本雄三
- 労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
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